僕は草刈りをしている途中にふと思った。「草刈りって切削加工とほぼ一緒やん」と…切削加工とは、金属をドリルみたいな刃物で削っていく加工方法のことだ。切削加工はどうやって材料を効率よく削っていくかよく研究されている。車の部品を削るのにも使われている切削加工、採算を高めるために理論化されているのはなんとなくわかってもらえるのではないだろうか。
それに対して草刈りはあまり理論化されていない。「じゃあ、切削加工から学べば、草刈りの効率化を学べる部分があるんじゃないか?」というところで、完全なる思いつきで記事を書いてみた。僕は切削加工機のオペレーションをしていたことがあるのでちょっとは詳しく語れる。この記事を読めば低燃費・低騒音・低振動の快適な草刈りライフが送れるようになるはずだ。
切削加工と回転速度・送り量・切込み深さ
切削加工はフライス盤やマシニングセンタ、旋盤などといった機械での加工全般を指す。普通の人にはあまり馴染みがないかもしれないが、プラスチック製品の金型や自動車部品などありとあらゆるところでこの加工方法が使われている。
切削加工での加工条件を決めていくのに必要な条件というものがある。代表的なのが「回転速度」「送り速度」「切り込み深さ」というものだ。回転速度→刈払機のエンジンスロットル、送り速度→刈払機を動かす速度、切り込み深さ→草の高さ、と言い換えることができるほど、切削加工と刈払機での草刈りはよく似ている。細分化して理解することで草刈りへの応用ができるようになるので順番に見ていこう。

回転速度
回転速度についてまず見ていこう。切削加工において、回転速度というのはかなり重要で、遅ければ加工時間が長くなるし、早すぎると刃が欠けたり焼け付いたりする可能性が高くなる。場合によっては刃が材料に食い込まず滑るようになることもある。
回転速度を導き出すには「刃物の外径寸法」が必要になってくる。なぜ外形寸法が必要なのかというと、同じ回転数でも直径100mm(円周長314mm)のものと直径50mm(円周長157mm)のものでは、円周長が全くことなるからだ。切削加工では刃先の動く速度のことを「周速」と呼び、刃物のカタログに適正な周速が表記されるのが一般的だ。刃物材質が良いと周速は速く設定できるし、加工する材質が硬いと周速は遅くなる。刃先は円周上を通るので周速と外形寸法から適切な回転速度を導き出せる。
送り速度
送り速度は刃物を横方向にずらして行くスピードを指す。送り速度が1分間に1mの場合で考えてみよう。回転速度が1000回転/分で工具の刃の枚数が10枚とすると「送り速度1000mm / (刃数10枚×回転速度1000回転/分)」と計算することで刃1枚あたり何ミリ削るかがわかる。この場合は刃1枚に付き0.1mm削っていく形になる。刃1枚で何mm削るかというのは「1刃送り」と呼び、1刃送りを決めて「送り速度/分」を求めることもできる。
一般的に柔らかい材質であれば、1刃送りは高くできるし、硬い材質であれば1刃送りは低くなる。同じ材質でも仕上げ加工と荒加工では送り速度は変わってくる。仕上げ加工の場合は回転速度を早くして送り速度を遅く設定し、荒加工では回転速度を遅くして送り速度を速くする。
回転速度と送り速度の関係は、次のようなイメージをしてもらえればわかりやすいかもしれない。ナイフで木を削るとして、高速でナイフを動かして薄く削るのはできると思うが深く削るというのは難しいはずだ。力を込めてゆっくり削れば、肉厚に木を削りやすい。要はゆっくり刃物を動かせば深く材料を削りやすいということだ。
ただし、ゆっくり深く削る場合は刃物を回転させる機械のパワーが必要になってくる。実際、加工の現場でゆっくり厚く削ることもされているが、大型の機械が利用されている。
切り込み深さ
エンドミルといった工具は、どれぐらいの深さで横に削っていくかを決める「切込み深さ」という設定項目がある。切り込み深さが深ければ、一気に厚く削ることができるが、その分切削時の抵抗が高くなる。マシンパワーがなければ加工できないし、刃物が折れたり欠けたりする場合もある。小型の加工機の場合は切込み深さを浅く設定して、送り速度を速くしたほうが効率が良くなる。

草刈りへの応用
切削加工についてのあれこれを解説したが、ここで草刈りへの応用について考えてみる。仮に直径255mmで刃が40枚ついているチップソーを使うと想定して考えていこう。ちなみにここで計算している公式は、MISUMIで詳しく解説されているので詳しく知りたい方はこちらへ。
回転速度の刈払機への応用
まずは回転速度。直径255mmなので1回転あたり約800mmの周速になる。エンジン式の草刈り機の場合、7000~12000回転/分ほど。仮に7000回転/分とすると周速は5604m/分となる。木材の切削時は周速が3000~5000m/分程度が一般的とされているので、木材よりさらに柔らかい草ならいい感じの速度が出ていると言えそうだ。
実際のところ、もっと回転速度が遅くても大丈夫だが、刈払機というのは軽量化のために高速で回転させて回転トルク(回す力のこと)を補うという手法が取られている。切削加工の機械のように回転速度を遅くしてトルクを高くする設計にすると刈払機自体が重たくなってしまうので、回転速度を早めて力を出せるようにしている。このような背景から、刈払機は中速程度でも速度は十分出ているということで、フルスロットルにする必要はないと考えられる。
ただし、回転速度を落としすぎると、草の抵抗で回転速度が落ちてしまう場合がある。そのような状態になるとエンジンの回転を刃物に伝える回転クラッチが半クラッチ状態になり、クラッチ部分が焼け付いてしまう可能性がある。草がチップソーに絡み回転速度が大きく落ちてしまう状態でずっと草刈りをしていると刈払機が焼け付いてダメになってしまうので注意しよう。
刈払機の回転クラッチが動作する基準は4000回転/分程度のことが多いため、それ以下の速度にならないことが重要だ。草を刈ったときに回転速度が落ちない程度にスロットルを調整しよう。草の状況に合わせてスロットルをできるだけ低く設定することで、燃費良く草刈りができるようになる。
送り速度の刈払機への応用
続いては送り速度だ。刈払機の振り幅を2mとして1秒で刈払機を振った場合、刃1枚当たり0.42mmずつ削ることになる。薄皮1枚剥いていくような感じでちょうど良さそうだ。刃1枚当たりの送り速度が小さくなればなるほど、草を切るときの抵抗が小さくなるので刈払機の回転速度を落としにくくなる。
勘のいい人ならお気づきかと思うが、回転速度が落ちやすいと感じたらエンジンスロットルを上げるという選択肢の他に、送り速度を下げるという選択肢もある。若い人は力任せに刈払機を動かしていることがあるが、このように考えていくとあまり良い選択肢とは言えないのだ。
近所のヨボヨボのじいちゃんがゆっくりした速度で刈払機を使っていたのだが、妙に仕上がりがキレイだったのは送り速度がゆっくりだからだ。倒れた草なんかも送り速度がゆっくりだと、草が起き上がる時間が取れるのでキレイに刈れる。若い人は力があるため送り速度が早すぎて、倒れた草が押し倒されるような形になってしまいキレイに刈れていない場合がある。刈払機を振る速度は思っているよりもゆっくりにすると仕上がりがよくなるはずだ。
ちなみに山林開拓用の2枚刃のような刃数の少ないものは、排気量の大きい刈払機に向いていて、排気量の小さい刈払機には向かない。刈払機を動かす速度が同じだとすると、刃1枚当たりの切り込み量が大きくなって抵抗値が上がるからだ。排気量の小さな刈払機で使ってしまうと抵抗が大きすぎて回転速度が下がってクラッチが焼けてしまう可能性があるので使わないほうがいいだろう。刃の枚数が少ないと刃1枚当たりの送り量が増えて、抵抗値が上がるということを頭の片隅においておくと、草刈りが上手くできるようになるかもしれない。
切込み深さの刈払機への応用
最後は切り込み深さになるが、切り込み深さというのは草刈りで言えば「雑草の高さ」「チップソーの上下位置」が当てはまる。セイタカアワダチソウなどが生い茂る草むらなんかでは、チップソーの上に切れた草が乗ってしまい大きな抵抗になってしまうというのを経験した人も多いのではないだろうか。
草刈りはできるなら茂るよりも前にやっておきたいというのはこの点からである。そんなことはわかっているとは思うが、忙しくてなかなか草刈りができないというのが世の常だ。めんどくさいから後回しになる気持ちはよくわかるので、繁茂してしまった場合どうすればいいのかを考えてみよう。
ある程度繁茂した草むらを草刈りする場合、チップソーの位置を少し高めに設定して相対的に雑草の高さを低くして草刈りをする「高刈り」という方法をおすすめする。
通常、地面すれすれでチップソーを動かし草を刈っていくのに対して、くるぶしよりも少し上ぐらい(5~10cm程度)でチップソーを動かすのが高刈りだ。草丈が30cmだったとすると、前者は29cmくらいの刈られた草が、後者は20cmくらいの刈られた草がチップソーの上に乗ることになるが、草刈りをしたことがある人であれば、その抵抗の大きさの違いがわかるだろう。後者のほうが草刈り機への負担が圧倒的に小さい。つまり回転速度を落としにくいということだ。
高刈りのメリットは他にも2つある。1つが刃先の石などへ接触しにくくなり、飛び石やキックバックのリスクが減って、チップソーの寿命が大幅に高まるところだ。
チップソーにはタングステンカーバイドという超硬い刃物がロウ付けされている。超硬いので草なんていくら切ったところでほぼ摩耗なんてしないのだ。実際、タングステンカーバイドなら鋼でも余裕で削れる。そんな硬いものがなぜ摩耗するのかというと、石や砂利を草と一緒に削ってしまうからだ。石や砂利はかなり硬い。だからそれに触れなければチップソーはかなりの長期間使える。高刈りをするようになってから、ロウ付けが外れてチップが外れる「チップ飛び」が発生することもほとんどなくなった。
2つ目が、高刈りを続けていると縦に伸びやすいイネ科雑草が減って、縦ではなく横に繁茂する広葉雑草が増える点だ。高い位置で雑草を刈ると、成長点が高い位置にある広葉雑草の成長点を残して草刈りができる。イネ科は地面との際に成長点があるが、広葉雑草の成長点は地面から数センチのところにある。同じタイミングで成長点を残して刈ると広葉雑草のほうが高い位置に成長点があるので先に広がり、イネ科雑草の光合成を阻害できるのだ。草刈りから1ヶ月後の草の高さも変わらないというデータもある。短期間では結果はでないが3回ほど継続して高刈りを続けると効果を感じられる。
さらに、刈った草をその場においておくことで、土壌に炭素分を供給し土の肥沃度を高められる。肥沃土が高い土壌には自然と柔らかい草が増えてくれる。うちの圃場では段々と白クローバーなどが増えてきて、年々草刈りが楽になってきている。白クローバーが増えると不思議なことにイネ科雑草はほどんど生えなくなる。さらに白クローバーはマメ科なので土壌に窒素固定もしてくれるので、どんどんと土が肥沃になっていく。地際で刈った草を集めて燃やすなどしていてはこうはならないはずだ。
雑草がめちゃめちゃ茂ってしまった場合は、もっと高く切るというのを2回やると少しは楽に刈れるかもしれない。

まとめ
ちょっとこじつけ感もあったかもしれないが、刈払機の動きを切削加工に見立てて細分化することで、どのように動かしていけばいいのかがわかったのではないだろうか。よくわからないまま刈払機を使っていたという人の参考になれば幸いだ。
最後に切削加工に学ぶ刈払機の扱い方についてのおさらいをしておこう。
回転速度:中速域でも十分な速度が出ているので、草を刈ったときに回転速度が低下しない程度にスロットルを調整しよう。
送り速度:刈払機を動かす速度が早すぎると回転速度を落とす原因になってしまうので、気持ちゆっくり目に動かそう。
切り込み深さ:地面から5~10cm程度で刈ることで回転速度を維持しやすくなり、イネ科の雑草の繁茂を抑制できる。
刈払機は切削加工機とは特性が異なるが、刈払機のエンジン特性を理解して、回転速度を落とさない工夫を各所に凝らすことでエンジンの回転速度を低く設定できる。エンジンの回転速度を低く設定できれば「低燃費・低騒音・低振動」の環境にも体にも負担の少ない草刈りができる。あと、刃物の切れ味も重要なので、できるだけ刃の研磨はしてあげよう。スパスパ切れる刃だと回転速度が落ちにくい。
あとがき
このようにほくベジでは、様々な事象から効率よく、無駄のない、環境に優しい野菜づくりをできるように頭を使って工夫を凝らして野菜づくりをしてる。この記事を読んで面白いと思った方は、ほくベジの野菜を買って応援していただけると嬉しい。